朝目覚めると約束の時間をすぎていた。
「やばい、寝坊した!」
ベッドから飛び起き、バックパッカーのフロントに向かう。
昨晩の雰囲気とは一転。朝の雰囲気はさわやかで、これからの行き先の計画を立てている若者やコーヒーを飲みながら本を読んでいる人、掃除を始めようとしているスタッフがそれぞれ自分の時間を過ごしていた。昨夜は絶対にもう泊まりたくないと思っていたが、案外悪くない。
チェックアウトを済ませ、外に出る。明るい朝の陽ざしと少し冷たくからっとした空気にとても癒された。そして初めてニュージーランドの街の姿を見ることができた。
「ついにニュージーランドに来たんだ。」また少し実感がわいた。
旅の前に準備しなければいけないものがあったのと、体調がまだ優れないためしばらくオークランドで滞在することにした。
オークランドにはたくさんのバックパッカーがあったが、旅行シーズンなのかどの宿もほぼ満室で、連泊の予約を取ることが難しかった。滞在中は毎日その日宿を探すところから始まり、3軒ぐらいのバックパッカーを毎日転々としていた。
旅の準備のため、スカイタワーのiサイトという観光案内所へ。完全に日本語で案内してくれて驚いた。ここではDOCのハットパスを購入するつもりで来たが、どうやらハットパスは海側のiサイトになるらしい。海の方へ行き、当時$92でハットパスを購入した。ハットパスとは山小屋の年間パスのようなもので、人気ルートでは別で支払いが必要な場合もあるが、TA上の山小屋ではほとんどこのハットパスを使って泊まることができる。北島では1回しか使う場面がなかったが、南島ではほとんどハット泊になるのでとても重宝した。
今回私たちは利用しなかったが、iサイトでビーコンを借りることもできる。私も一人で旅をすることになっていたら使っていたと思う。
ハットパスを購入し、海沿いのカフェで初めての朝食。パンとジャムとコーヒーのセット。エスプレッソは苦いと学んだ。
次はアウトドアショップへ。道具は日本からほとんど持ってきていたが、いくつかニュージーランドでそろえる必要があった。
まずはコンパス。日本とは磁石の方位が逆だと私はこの時初めて知った。今でもその原理を考えようとすると混乱するので、考えないようにして事実を受け入れている。
調理にはガスを使用するので、ガスボンベとそれにつける五徳を購入。接客してくれたお姉さんがとてもキュートでいい人だった。
スマートフォンはSIMフリーのものを持っていた。SIMの購入を検討したが、まずは買わないで過ごしてみようということになり、購入しなかった。ニュージーランドはwi-fi環境がとても整備されているので、オークランドに来てからも宿やスーパーでwi-fiを使用することができたので困ることはなかった。
準備は1日で終わってしまったので、翌日からはのんびりオークランドでの生活を満喫した。スーパーで食材を買って自炊をして過ごした。パンに塗るためのピーナツバターを買ったらまさかのシュガーレス。食べた瞬間なんだこれー!と驚いた。日本で食べていた甘いピーナツバターを想像していたので、口が甘くないピーナツバターを受け付けなかった。
ニュージーランドでは甘くないのがスタンダードらしい。
オークランドの街中を散歩しているとアートギャラリーがあったので寄ってみる。まさかの入場無料。広くてとても見ごたえがあった。1階では子供たち向けのアートイベントが行われていてみんな楽しそうに作品を作っていた。なんか、いいな、と思った。
ギャラリーの裏にある公園へ向かった。とても美しい芝生の公園。日本だったら入園料が必要なぐらい整っている公園が無料なのだ。まずはそのことに驚いた。
公園の中心には満開になった大きな桜の木があった。みんなそこで寝そべってしゃべったり、本を読んだりしている。私たちも桜の木の下でゴロゴロしながらリンゴをかじったり、昼寝をした。最高だ。
それにしても、こうして桜を見ながら公園でゆったりと過ごしていると本当に日本と変わらないのだ。
私が憧れていた“海外”というものはそんなに遠いところではなかったのかもしれない。
でもやっぱり日本とはどこか違う。そんなところで小さな生活をしているのがとても楽しかった。ただ生きることだけで毎日が充実していた。
この生活に満足していて、このままでもいいかなと思うこともあった。
本当に旅が始まるのだろうか。